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労災事件(医師・くも膜下出血事案)で勝訴判決を獲得しました◆蟹江鬼太郎弁護士・守屋智大弁護士

当事務所の蟹江鬼太郎弁護士、守屋智大弁護士が担当する労災事件で勝訴判決を獲得しました。

※ 弁護団は、川人博弁護士(川人法律事務所)、梶山孝史弁護士(BACeLL法律会計事務所)と、当事務所の蟹江、守屋各弁護士です。

※ 本件に関する報道は、本ページの最下部にまとめています。

 

本件は、都内の大学病院の緩和医療科で働いていた医師(原告)が、くも膜下出血を発症し、現在も入院・療養中の事案です。以下、事案の概要をご説明します。

 

1 原告の業務と被災(2018年11月)

(1) 原告は、がん・HIVなど生命を脅かす重篤な疾患の患者さんを担当する緩和医療科で、唯一の実働医師として外来・入院・緩和ケアチームの業務をすべて一人でこなしていました。

(2) さらに、月に3〜4回、夕方5時15分から翌朝8時30分までの15時間15分にわたる宿直業務にも従事していました。
病棟への入退館記録、院内PHSの記録や、カルテのログなどからすれば、原告は、宿直時間中も院内PHSを持たされて院内で待機をし、深夜の時間帯にも呼び出されて、嘔気、胸痛、転倒などへの対応のみならず、重病患者への対応や、看取り業務をも行っていました。

(3) 原告は、2018年11月、くも膜下出血を発症しました。

 

2 労災申請から提訴まで

原告は、2019年に労災申請をしましたが、労働基準監督署、労働保険審査官、労働保険審査会という3つの行政機関がいずれも「業務外(労災ではない)」と判断しました。

問題の核心は、宿直時間を「労働時間」と認めるかどうかでした。

 

(1) 労働基準監督署の判断(2020年10月13日)

宿直時間(15時間15分)のうちの6時間(所定の仮眠時間)を労働時間から除外しました。
また、兼業時間(外勤先クリニックへの移動時間、外勤先での労働時間)を労働時間から除外しました。
その結果、発症前3か月の時間外労働の平均は月70時間14分とされ、労災認定基準(月80時間)を下回るとして、労災不支給処分をしました。

期間 時間外労働
時間数
複数月平均
(1か月当たり)
発症前1か月前 70:37
発症前2か月前 64:42 67:39
発症前3か月前 75:23 70:14
発症前4か月前 27:24 59:31
発症前5か月前 65:31 60:43
発症前6か月前 26:12 54:58

 

(2) 労働者災害補償保険審査官の判断(2022年12月27日)

審査官は、宿直時間(15時間15分)の全ての時間が「常態としてほとんど労働をする必要のない勤務」にあたるとして、宿直時間(15時間15分)の労働時間をゼロとしました。また、兼業時間も労働時間と認めませんでした。
これにより時間外労働の平均は月46時間45分まで圧縮されました。
その結果、労災不支給処分は維持されました。

時間外労働
時間数
平均時間外
労働時間数
発症前1か月前 42:57
発症前2か月前 46:12 44:34
発症前3か月前 51:07 46:45
発症前4か月前 5:03 36:19
発症前5か月前 47:01 38:28
発症前6か月前 13:10 34:15

 

 (3) 労働保険審査会の判断(2024年1月19日)

審査会は、上記審査官の判断を「おおむね妥当」として支持した上で、「電子カルテ上、患者対応をしていたことが明らかな時間」のみをわずかに加算しました。
その結果、時間外労働の平均は月49時間05分であるとして、労災不支給処分を維持しました。

時間外労働
時間数
平均時間外
労働時間数
発症前1か月前 49:04
発症前2か月前 47:04 48:04
発症前3か月前 51:08 49:05
発症前4か月前 7:28 38:41
発症前5か月前 47:43 40:29
発症前6か月前 18:18 36:47

 

また、労基署も、審査官も、審査会も、原告の業務は、精神的緊張を伴う業務ではないとして、労働時間以外の負荷要因も全く認めませんでした。

 

3 提訴(2024年7月10日)

しかし、上記で述べた原告の宿直業務の実態からすれば、「常態として殆ど労働をする必要のない」状態に置かれていなかったことは明らかです。
弁護団は、本件における労災認定を目指し、労災不支給処分の取消訴訟の提訴に踏み切りました。

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※ 当時の記事はこちらからご覧いただけます

・担当の労災事件(過労死事件)が報道されました◆蟹江鬼太郎弁護士

https://junpo.org/blogs/5301

・担当の労災事件が報道されました◆蟹江鬼太郎弁護士・守屋智大弁護士

https://junpo.org/blogs/6654

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4 東京地裁判決(2026年3月16日)

2026年3月16日、東京地裁民事33部(瀬田浩久裁判長、合議)は原告の請求を認め、行政の「業務外」決定を取り消しました。
本判決は、宿直時間の全てを労働時間であると認め、また、労働時間以外の負荷要因の存在も認定しました。
国は控訴をせず、3月30日、本判決は確定しました。

 

(1) 宿直時間はすべて「労働時間」であること

裁判所は、原告が宿直中も院内PHSを持ち続け、看護師から呼び出されれば深夜であっても病棟に駆けつけ、重篤患者の急変対応、看取り、カルテ作成などを行っていたとして、「使用者の指揮命令下に置かれており、労働からの解放が保障されていたとはいえない」として、宿直時間の全体(15時間15分)が業務の過重性を評価する労働時間にあたると判断しました。

国は「宿直は待機が主で業務は軽微」と主張しましたが、裁判所は「原告は、宿直勤務中いつでも看護師から呼び出される可能性があり、入院患者が死亡した場合にはほとんど睡眠をとることができない可能性も認識した上で宿直業務に当たっており、一定の緊張状態にあった」と認めました。

また、裁判所は、原告は、本件病院にて、「難治疾患」の患者の診療を担当していることをあげ、「本件病院における宿直業務は、時に人命を左右しかねない重大な判断や処置が求められる点において、少なくとも通常業務と変わらない精神的負担を伴うものであった」と認めました。

 

(2) 月平均100時間超の時間外労働を認定

原告は、兼業先でも業務に従事していましたが、本判決は、本件病院における業務だけでも、月平均100時間を超える時間外労働が認められると認定しました。

期間 時間外労働
時間数
複数月平均
(1か月当たり)
発症前1か月前 98:52
発症前2か月前 108:15 103:33
発症前3か月前 98:31 101:52
発症前4か月前 117:26 105:46
発症前5か月前 116:26 107:54
発症前6か月前 103:33 107:10

 

(3) 業務の過重性(労働時間以外の負荷要因)も認定

裁判所は、時間外労働の長さだけでなく、業務の「質」の重さも認定しました。
本件事故当時は、緩和医療科の実働医師は原告一名だったこと、14日間・12日間といった連続勤務が複数認められること、拘束時間の長さ(発症前1か月だけで291時間22分)、勤務間インターバルが11時間未満となる日が発症前6か月間で56回あったことなどを認定し、原告の業務の過重性を認めました。

 

5 本判決の意義

2024年4月に医師の時間外労働の上限規制が施行されましたが、実態として医師の過重労働は続いています。
宿日直許可によって宿直時間を労働時間から除外したり、業務の一部を自己研鑽時間として労働時間から除外したりすることによって、見かけ上の労働時間のみを削減する事案が後を絶ちません。

本判決は、原告の宿直勤務の実態を詳細に認定した上で「宿直業務の時間全体」が労働時間にあたると判示しました。
弁護団としては、国および労働行政に対し、本判決を真摯に受け止め、異常な過少認定や、医師の働き方改革に逆行する労災認定実務を抜本的に見直すことを求めます。

 

 

【本件に関する報道】

●NHK

東京大学の附属病院の50代医師 労災と認める判決 東京地裁

https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015077421000

●日経新聞

寝たきりは長時間労働原因 東大医師、不支給取り消し

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD168BM0W6A310C2000000/

●朝日新聞

「宿直は労働時間」医師の労災認定 東京地裁、国の判断覆す

https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S16435931.html

●毎日新聞

医師の宿直は労働? 認めなかった国敗訴、「働かせ放題」に警鐘

https://mainichi.jp/articles/20260401/k00/00m/040/239000c

●弁護士JPニュース

月100時間超残業で48歳医師が寝たきりに…
東京地裁、労災不認定処分を取消「宿直は労働時間ではない」とした国の判断覆す

https://www.ben54.jp/news/3363

●m3.com

都内大学病院の男性医師の労災訴訟、原告の勝訴確定

https://sp.m3.com/news/open/iryoishin/1328653?promotionCode=sns_m3_tnews

●日経メディカル

宿直業務の「労働時間性」を認め、労災不支給を取り消す判決

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/202604/592659.html

●MEDIFAXweb

医師の労災認定訴訟、判決が確定  原告側「宿直は労働と認定」

https://mf.jiho.jp/article/266786

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